美術館について

館長あいさつ

再生の春に

小川館長写真
松本市美術館館長 小川稔

信州の少し遅い春、山々の彩りがいそがしく移り変わる季節を迎えました。一年間にわたる大規模改修工事を完了し、松本市美術館は再開しました。一新された照明など、利用者の利便にかなうよう改装された館内をまずゆっくり歩いていただきたいと思います。特集展示「草間彌生 魂のおきどころ」、上條信山記念展示室、田村一男記念展示室、池上百竹亭コレクション展示室、アートライブラリーの他、ミュージアムショップやカフェも新装しました。

世界的な感染症の影響からしばらく身を潜めていた文化活動があちこちで息を吹き返す時期でもありますが、私たちの美術館はおかげさまで20周年を迎えることになりました。今日の社会がもとめる文化施設の新しい役割を担い、次のステージに向かうことになります。昨年、街中のパルコでの長期に渡る企画展では信州発の次世代アーティストをご紹介することができました。現在も「前衛」であり続ける草間さんに続き活躍する、この土地ゆかりの作家たちによる多彩な作品の魅力を実感していただけたのではないでしょうか。アートをめぐり、世界は一時も止まることなく動いています。

「よみがえる正倉院宝物展」での再開となりますが、実はこれも近代美術史の一端のご紹介です。欧米の文化を急速に受容しなければならなかった明治期に、わが国固有の文化財を見直す機運も高まり、美術作品や資料の保存、修復活動が始まりました。文化伝承のための先人たちの思い、脆弱な文化財を後世に伝える知恵や技法が現在の美術界の様々な局面を下支えしているのではないでしょうか。正倉院御物の模造は過去の美の規範の「うつし」であり、同時に科学的な検証、つまり学びでもあります。さらに次世代への継承のためであるならば、当館を含む近代美術館の役割もここに重なってみえてきます。

しかし、当館は明治期に始まる近代美術以来、常に移り変わる世界を映す場所としてあります。収蔵庫で分類される絵画や彫刻の領域をはるかに超えたアートの現状をどうご紹介できるか、チャレンジは続きます。今年2022年はたまたま善光寺御開帳と諏訪御柱祭も重なり、信州は思いがけず祝祭的な春となりました。新生なった松本市美術館へどうぞお出かけください。

松本市美術館館長 小川稔